事務局より

清水真哉

<ヒートアイランド現象と自動車>

 昨年ほどの酷暑ではなかったが、今年も暑い夏が来て、過ぎていった。そしてこの夏は節電の夏だった。
 大都市は郊外に比べて一段暑い。いわゆるヒートアイランド現象であるが、それは冷房需要を押し上げ、節電の妨げとなる。ヒートアイランド現象にはさまざまの要因が寄与しているのであろうが、自動車交通によるものも小さくない。
 まず最も直接的には自動車の廃熱である。誰かが夏、空き地で焚き火をしたら嫌われるであろう。それを路上でガソリンを燃焼させているのである。本来とてつもなく迷惑な行為である。夏はさらに車内でエアコンを使い、それがまたガソリンの消費量を増やして都市の気温を上昇させる。
 次は道路建設が引き起こした都市環境への影響である。東京では中央区などで特に、戦災で出たがれきの処理場所として、その後は道路の建設用地として、川や堀、運河が次々と埋め立てられていった。酷暑対策として打ち水がなされることがあるが、打ち水をするだけで冷涼感を得られるのであるから、常時水が流れる川や堀があれば、どれほど涼しいことであろうか。居住地の近くに川、湖、海などの水があると、熱伝導率の低い水には気温調整機能があり、夏はその分涼しく、冬は暖かくなる。逆に愛知の多治見市や埼玉の熊谷市など内陸部で夏暑く冬寒いのは、海から遠いからである。都市内にある水系のヒートアイランドを緩和する機能に、もっと注意を払ってもよいと思う。
 道路がアスファルトなどで舗装されることもヒートアイランド化の要因である。アスファルト自体が熱を蓄えるし、舗装は土を覆い水分の蒸散を妨げる。道の舗装からは歩行者や自転車も恩恵を受けているが、人間だけならもっと沢山、並木を植えたりできるはずだし、そもそもそれほど広い道路面積を必要としない。ましてや駐車場のための舗装となると、益は乏しく環境悪化に対する責任のみ大きいであろう。
 自動車の騒音や排ガスも、ヒートアイランド化の間接的な原因となっている。道路からの騒音や路上でアイドリングする車の排ガスで窓が開けられないことにより、エアコンの使用量が増え、室外機からの廃熱が増えるのである。自動車の騒音を抑制することに責任を負っているはずの環境省は、何と窓を開けないという前提で騒音基準値を定めている。電力消費量の増大に環境省は何の関心もないらしい。
 騒音について最も許しがたいのはバイクである。騒音を最小限にする責務があるのに、車両を改造してまでけたたましい音を立てて走行することに喜びを見出す愚か者どもを、警察、国土交通省、環境省などの監督官庁は放置している。
 自動車は言うまでもなく、ヒートアイランド化にとどまらず、二酸化炭素を排出することにより、ますます加速する温暖化に寄与して酷暑そのものの原因となっている。
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 この原稿を書いている10月、暑くも寒くもなく、本来心地よい季節である。ところが電車の中はどの社も冷房か暖房か通風か知らないが、動かしっ放しになっている。あれほどの事故の後でさえ、日本人は何も学ぼうとしない。何だか嫌な国に住んでいると思う。