1999年春の全国交通安全運動への提言

最終更新日:1999.05.09



平成11年春の全国交通安全運動への提言

総務庁 交通対策本部 御中
春の全国交通安全運動 主催各団体 御中

                  1999年5月11日
                  クルマ社会を問い直す会

 貴団体におかれましては、時下ますますご清栄のことと存じます。
 私ども「クルマ社会を問い直す会」は、今日のクルマ社会における交通死傷事故の多発、中でも子どもや高齢者等の弱者が主として歩行中に遭う被害の多さを憂慮し、改善を願って関係機関への提言などの諸活動を行っております。
 さて、今年も「春の全国交通安全運動」が行なわれるのを機に、提言をさせていただきます。交通事故をなくすために私どもの求める対策・視点をなにとぞご理解賜り、今後の交通安全施策に反映させていただきたく、お願い申し上げます。
 なお、今回は私どもが執筆いたしました書籍「クルマ社会と子どもたち」を同封させていただきます。ご一読のうえ、今後の交通安全運動へお役立ていただけるよう、お願いいたします。

●子ども・高齢者の特性を最重視した、運転指導・交通環境改善の推進を

 今回の運動の全国重点目標の一つに、「子どもと高齢者の交通事故防止」が掲げられており、これは私どもも切に願うところです。この目標達成にあたっては次の2つ事実を、最も重視すべきであると思います。

1.子どもおよび高齢者の知覚能力・注意力・反射能力等は青壮年に比べて充分ではなく、同質のものでもない。またその不十分さは、安全教育や指導で補いきれるものではない。

2.膨大な運動エネルギーを持つ自動車が、子どもや高齢者を含む歩行者と同一平面を軌道なしで走行すること自体に、大きな危険がある。

 交通安全運動とは、このような認識の上に立って、運転者への指導や規制、地域の交通環境の改善・充実を図っていくことだと考えます。交通事故を減らすには物理的対策と交通環境改善が最も効果的であり、それを喚起する運動としても期待しております。

●実施事項に対する具体的対案

 以上の観点から、今回の運動方針への具体的な希望を述べさせていただきます。ご理解いただきやすいように、実施要項の「第6 全国重点目標に関する主な実施事項」の重要部分に沿って、以下に記させていただきます。

 なお、これらはすべて(1)に対応するものです。(2)については末尾に御団体への要望を記しております。

1 運転者における推進事項

● 生活道路では、徐行運転を励行し、特に子供や高齢者の通行の多い区間へは、できる限り車両の乗り入れを自粛する。
● 高齢になり運転適応能力に著しい困難が生じた場合に備えて、公共交通網の存在意義を理解し、その活性化に進んで協力できるようにする。
● 「高齢運転者標識」の有無等にかかわらず、普段から危険運転行為をしないことを励行する。

2 地域・家庭等における推進事項

● 町内会等の地域住民の組織では、子供や高齢者の通行の多い生活道路での車両の走行に関して、自主規制を呼びかける。
● 地域の交通安全講習会等では、運転者に対して、現行の自動車システムが構造的にもつ安全確保の困難性を、認識できるようにする。
● 通園・通学時間帯における街頭での運転者に対応する交通安全指導の必要性を理解し、これに協力する。
● 幼稚園・学校等では、路上駐車や、路地裏への車両の乗り入れなど、園児・児童の通行を妨げる行為をしないようPTA集会等を通じて保護者等に働きかける。
● 保護者は、通学路等を子どもと一緒に歩き、子どもの知覚能力が大人ほど充分かつ同質のものではないことを認識の上、危険箇所を発見の際、道路管理者に通報する。
● 身近に起きた事故事例等を家庭で話し合う際に、多くの人々の生命や健康が、自動車への過度の依存によって奪われている事実を認識する。
● 歩行者への夜光反射材の装着よりも、運転者自身の飲酒運転防止や、道路の歩車分離等による交通環境の構造的な改善を、地域社会は積極的に推進する。
● 通学路等における交通危険箇所の一斉点検を実施し、その結果をふまえて、車両の交通規制・運転者の運転自粛等の安全対策を推進する。

3 職域における推進事項

● 事業所等では、子供や高齢者を交通事故から守るために、可能な限り車両の使用を控える方向で業務の見直しを図る。

4 関係機関・団体における推進事項

● 道路管理者は、交通環境の構造的改善に向けて住民と意思疎通を図れるようにするため、道路の安全性に関する各種情報の公開を促進する。
● 交通事故原因の分析手法に関して、関係行政機関は、住民一般からも幅広く意見聴取ができようにする。
● 各種メディアは、交通安全に関する議論の機会を国民に幅広く提供するとともに、交通事故被害者や遺族の置かれている実態についても特に報道する機会を確保する。
● 免許試験場や教習所では、事故実態に即して、子どもや高齢者の知覚状態を運転者が経験できるような教育を定期的に実施し、免許既得者に参加を義務づける。
● 高齢者に対して無理に運転を続けさせることのないよう、関係行政機関は運転適性診断における厳正な判定とともに、公共交通機関の確保に努める。
● 各種の機会をとらえ、運転者に対して、子どもや高齢者の認識・知覚能力等に関する教育・指導を積極的に行なう。
● 「高齢運転者標識」の有無に関わらず、運転者が日頃から危険運転行為をしないよう、関係行政機関は周知徹底を図る。

 ※以下は、推進せず見直したほうが良いと考えます。

● 交通安全行事のうち、地域住民の参加が見込まれずかつその効果が高くないものについて、主催機関・団体は見直す。
● 夜光反射材の普及は、路上の交通安全を歩行者に一方的に転嫁し、運転者の注意力を低下させるおそれがあるので、関係行政機関は、これを見直す。

 なお、「第5 全国重点目標」には「シートベルトの着用の徹底とチャイルドシートの着用促進」が掲げられており、「第6 全国重点目標に関する主な実施事項」にも、(2)として関連する対策が掲げられていますが、そもそもシートベルト着用によって運転者・同乗者の安全性が確保された時、かえって乱暴な運転を、したがって歩行者に対して危険な運転が、誘発される可能性があります。そのことは、「リスク・ホメオスタシス理論」からも充分に推察されます。それ故、シートベルトに関する扱いは慎重にされるよう、要望いたします。

(以上)


クルマ社会を問い直す会