社会民主党からの回答
最終更新日:2000.06.21

2000.6.3
「クルマ社会の見直しに関する公開質問状」に対する回答
社会民主党 運輸政策調査会

 自動車中心でない、人間中心の交通政策、道路政策を求めてご活躍の貴団体に心から敬意を表します。
 だれもが行きたいところにいけるという「交通の自由」・「交通権」を保障し、安全で快適な交通システムを確立することが社民党の交通政策の基本です。社民党は、交通においてなくてはならない「安全、快適、公平」の三つの視点を守り、これまでの経済や産業構造を前提とした交通から脱却し、公共性を基盤に置いた人と地球にやさしい永続的な総合交通体系の実現に努力しています。
 そこでは、マイカー中心の交通ではなく公共交通の復権・拡充の方向が強調され、必要な社会的規制の強化と十分な公的財源の投入による公共交通の立て直しがなされなければなりません。社民党は、マイカー依存の車社会から、人、街、環境にやさしい公共交通機関への転換を図るため、「交通基本法」の制定を訴えています。
 ご返事が遅くなったことをお詫びしつつ、公開質問状について以下の通り回答させていただきますので、今後ともよろしくお願い申し上げます。

          記

1)交通安全対策について
 車社会の進展は、急速な交通事故の増加を招き、死傷者の激増をもたらしました。貴重な人命が年間一万人近く失われる悲惨な事故が続発していることは、非常に大きな問題です。社民党は、交通事故問題は広範囲にまたがる課題であり極めて総合的にとらえる必要があると考え、以下の施策の実現に全力をあげて取り組んでいます。
 まず歩行者と車が同じ道を通行することが事故の大きな要因の一つですから、歩車道の完全分離を推進するとともに通行区分の明確化を徹底し、またスクールゾーンの増設やコミュニティ道路の充実を図っていきます。交差点における歩行者優先の原則を徹底するとともに、信号機の高度化を進めるなど「人にやさしい」視点で歩行者安全策を追求します。
 次に自転車事故や歩行者への傷害事故を防止するため、非常に遅れている自転車道の整備や自転車通行帯の充実を推進していきます。
 車対車の事故防止のためには、道路標識や信号機の改善を図るとともに、自動車構造の一層の向上を進めるため構造基準の強化を図ります。またエアバッグの普及を進めています。なお、チャイルドシートの義務化や事故の発生につながりやすい運転中の携帯電話の使用規制については道路交通法改正を実現しました。
 社民党は、以上の観点から、年次計画に基づく交通安全施設の整備拡充を着実に進めます。また、交通安全教育の一層の推進や、自動車教習の強化など運転者対策も充実します。
 一方、各省庁の連携を強化するとともに、自治体が独自に交通実態にあった交通安全行政を行えることを追求します。

2)歩行者優先施策について
 クルマ優先ではなく、歩行者の安全が最優先されなければならないと考えます。総選挙政策では、「歩道と車道の完全分離、通行区分の明確化、スクールゾーンやコミュニティー道路の充実、「抜け道」の禁止、都心部への自動車の乗り入れ規制を強化」することを盛り込んでいます。住宅地のクルマ進入禁止区域の拡大、路側帯の歩道化、スピードの抑制、横断歩道における信号設置の促進などについてもあわせて今後とも取り組んでいくことをお約束します。

3)交通弱者の安全について
 貴会のおっしゃるとおりであると考えます。直近の「交通安全白書」によれば、高齢者の死者比率は99年で34.9%となり、車椅子利用の死傷者もこの10年間で約2.5倍になっています。また、事故死傷者の6割強が無違反であるといいます。歩道整備の促進、歩道の拡幅、路側帯の歩道化、狭い道路の一方通行化、歩道や路側帯への駐車の禁止・取締りの徹底に今後とも取り組んでいきます。

4)交差点における交通事故対策について
 交差点での巻き込まれ事故を防止するため、すでに分離信号の設置、時差式信号の是正について社民党も取り組んでいます。遮断機の設置や交差点における歩行者横断妨害の処分の重課についても積極的に検討していきます。

5)人身事故加害者の重罰化について
 交通事故は、毎年一万人近い死者と九〇万人を越える負傷者を生み出しています。その結果、「交通事故不感症」ともいうべき状況になっており、人間よりも物や金を優先させる風潮が人間の生命に金を払うことで交通事故の処理を完結しようとしているのがあたりまえとなっています。しかも女性は男性の六割水準にも充たないと逸失利益の算定基準における男女間格差もあります。
 1997年秋に世田谷区で起きたダンプカーによる「ひき逃げ」事件は、被害者や遺族に対する捜査当局の対応に配慮が欠けている実態を明らかにしました。社民党の追及によって、捜査状況や容疑者の処分結果を説明する制度の導入を政府に行わせることになりましたし、警察庁も遺族を対象にアンケート調査を行うことになりました。さらに、PTSD(心的外傷後ストレス傷害)対策も含めた事故被害者や家族の救済策をもっと充実させていきます。
 また、死亡事故に関して行政上の処分はわずか免許停止一年であり、交通犯罪の裁判の量刑についても窃盗や詐欺の方が業務上過失致死罪より重くなっており、一人の人間の生命を奪ったという行為に対する刑罰としては刑罰としては寛容に過ぎます。業務上過失致死罪ではなく、殺人罪を適用してもよいのではないかという遺族の方の心情も十分わかります。しかも実刑の減少、起訴率の減少など、検察庁・裁判所は交通犯罪に対する処理方針を寛大な方向へと転換させています。1993年版の犯罪白書では、国民皆免許時代、クルマ社会なので国民の多数が刑罰の対象となるのはよくない、保険制度の普及で起訴されなくても納得、刑罰以外の総合的対策で達成されるべき、などとしていますが、みんなでやるから仕方がないとか、金銭で解決すればよいというのは交通犯罪を容認することにつながってしまうのではないでしょうか。
 社民党は、あくまでも人間の生命が失われたことを基本にすべきであると考えます。寛刑化が交通犯罪に対する一般的予防効果を弱めているとも考えられますので、事故に見合った刑罰の量刑の引き上げを検討します。
 なお、警察庁が構想している行政制裁金制度の導入については、社民党は、刑事罰を課すものを行政の手に委ねてしまうこと、警察の恣意・裁量の余地が拡大することなどの理由で反対です。

6)自賠責保険について
 貴会のおっしゃる通りであると考えます。自賠責再保険制度の廃止を損害保険会社側が訴えていますが、営利目的の保険会社が本当に救済されるべき被害者の立場に立つことができるのか疑問があります。現在の再保険制度の運営の透明化・民主化は必要ですが、社民党は、すべて営利企業に委ねることには反対です。政府がきちんと関与するとともに、黒字については保険料の引き下げに充当するのではなく、逆に被害者救済事業をもっと充実させるために用いるべきであると訴えています。

7)自動車運転免許の見直しについて
 貴会のおっしゃる通りであると考えます。安全施設整備と同時に大切なのは、交通事故における加害者となる可能性のあるクルマの運転者への働きかけです。「交通安全教育の一層の充実や自動車教習の強化などの運転者対策」を選挙政策に盛り込んでいますが、運転免許資格の厳格化、教習内容の充実、交通弱者・事故被害者の立場を重視した再教育の実施などに取り組んでいくべきであると考えます。

8)学校教育における交通安全指導について
 学校では、運転を前提とした「教習」ではなく、歩行者や交通弱者、交通事故被害者の立場にたった交通安全「教育」や人間性の涵養、クルマ社会の問題点の学習を進めるべきです。高速道路でのスピード規制の緩和や2人乗り要求など、二輪の安全面からの逆風が吹いています。二輪免許についても、水準の高度化や取得年齢の引き上げ、実技・実習の重視の方向で見直すべきであると考えます。

9)公共交通の再生、整備について
 自動車中心の交通システムが、地球温暖化、渋滞・駐車場問題、大気汚染、騒音、交通事故等の様々な問題を引き起こしています。そしてモータリゼーションによって、公共交通が不便になったり、赤字を抱えるようになったりし、その結果、車を運転できない人々の移動の自由や権利(交通権)が保障されなくなってしまいました。大量生産・消費・廃棄型の産業や国土利用のあり方から循環と共生の経済社会システムに転換していくべきだというのはほぼ共通の認識となっています。環境、福祉の面からも、マイカー依存を厳しく制限することによって、快適な「人と環境にやさしい交通」を充実することが求められているのではないでしょうか。
 社民党は、脱クルマ社会を展望し、自動車の都心部乗り入れ規制や台数割当制度を導入するなど、自動車の総量規制に踏み出します。道路にかたよった社会的資源の配分を是正し、環境やエネルギーの点からすぐれた交通手段である鉄道の再活用に取り組みます。鉄道を地域住民の共同の社会資本と位置づけ、駅を拠点とした街づくり、アクセスや利便性の向上、駅周辺整備の推進や「ルーラルレイルウェイツーリズム」など、鉄道を核とした地域振興を進めます。
 とくに、排ガス抑制・省エネルギーの地域公共交通体系を確立するため、公害のない安全な大量輸送機関である路面電車の役割を見直し、その活性化を図ることを訴えています。その核となるのが、LRT(ライトレール・トランジット)です。LRTは、従来のチンチン電車とは異なる新しい中規模交通機関で、高速、専用軌道、郊外直通、低床車両等の特徴をもっている路面電車です。路面電車は、一キロあたり数億円と地下鉄や新交通システムに比べ非常に安い費用で敷設できるうえ、階段もなくすぐ乗ることができ、障害者や高齢者など交通弱者にもやさしい乗り物です。排ガス抑制や省エネルギーにも役立ち、また乗換えがしやすくネットワーク化も容易であり、小きざみな停留所の設定が可能でニーズに応えやすいものでもあります。都市計画の一貫として、人間中心の街作りとして車に占領されすぎた街を人間の手に取り戻すためにも、LRTを支援します。またガイドウェイバスやスカイレール、モノレールなど地域に合った交通システムの導入・整備も推進します。
 さて、地域住民の生活路線を守るということは、単にそこで交通企業を経営する一事業者の採算性を超えた「公共性」の問題であると考えます。こうした視点から社民党は、生活必需路線としての公共交通機関は、国・自治体の施策としてこれを維持すべきだと考えます。社会的なコスト・効率性からすれば、自動車産業を始めとする大企業の利益活動に主導された「私的モータリゼーション」のもたらす負担はそれ以上に巨大です。社会的には公共交通が圧倒的に優れており、バスの社会的必要性も明確です。公共交通を優先する立場で、道路目的財源の総合交通財源化を行い、バスの維持・復権のための財源を国・自治体の責任できちんと手当します。

10)自動車と健康被害、11)自動車と騒音
 地球温暖化、酸性雨、騒音や排気ガスによる健康被害など、私たちの生活や環境は、クルマ社会から大きな脅威を受けています。
 人々が、きれいな空気や環境を取り戻し、健康被害や騒音のない生活をおくるのは当然の権利です。裁判では自動車の公共性自体が争われたものであると認識しています。マイカーに本当に公共性があるのか自体疑問です。
 社民党は、何よりもクルマの総量規制を進め、脱クルマ社会をめざします。脱クルマ社会を支える基礎は、何人であれ環境を汚染したり、他人に迷惑をかける権利や自由はないという、人々の共通の認識です。
 1997円12月のCOP3京都会議では、わが国の目標として「2008年から2012年の間に、温室効果ガスを1990年比で6%削減する」ことが決定されました。そかし1997年度の二酸化炭素排出量は、1990年度との比較ですでに約9.7%増加しています。二酸化炭素のわが国における排出源は、1997年度で運輸部門が20.9%(排出量は90年度と比べ約21.3%増)。中でも自動車からの排出量が大部分を占めており、自動車排出ガス対策は緊急を要します。総走行量を削減することは吃緊の課題です。
 ディーゼル車を削減していくためには、生産の規制も行う必要がありますが、公共バスの電気自動車化は一日も早く行うべきです。電気自動車、天然ガス自動車、ハイブリッドカー、メタノール自動車など低公害車を普及するための施策も今以上に推し進めなければなりません。
 またトラックが主流になっている様々な物品の輸送を、鉄道や海運へ転換します。市街地の交通もバス輸送ではなく、新しい路面電車LRT(軽快電車)を導入します。当然、道路中心の公共事業も見直します。
 マイカーは生活に密着し大変便利なものです。これを規制すると抵抗のある人も多いと思いますが、人々がマイカーではなく公共交通機関を積極的に利用する施策、すなわちマイカーでは不便で不経済になるという施策を進めれば、「規制」しなくともマイカーの量は削減できます。環境税の導入《ディーゼル車、排気量の多い車(2000cc以上)など環境への負荷の大きい自動車には税負担を重くする。特にマイカーには重くする。ガソリン税導入》はその一つの方法です。
 大切なことは、自分たちが騒音や排出ガスの被害者にもなりうると同時に、その原因を作り出してもいる(加害者でももある)という一人一人の自覚です。この自覚なしにクルマ社会からの脱却は図れません。
 なお、すでに社民党の「二〇一〇年への政策ビジョン」では、安全・快適・公平な交通体系を実現するため、道路に偏った社会的資源配分の是正、鉄道を活かした都市間・通勤交通体系や路面電車のネットワークの整備、過疎バス・コミュニティバスの充実、駅舎・車両の改良などを進めることに加え、「クルマの所有者は適正な社会的費用を負担しなければなりません。そのために、乗り入れ規制・速度規制を厳正に実施し、勝って気ままに走ることを規制するとともに、車両台数などの総量にも規制を行い、公共レンタカー制を導入します」として、車に対する社会的規制の強化を打ち出しています。総選挙政策でも、「交通需要マネジメントを推進し、自動車の都心部乗り入れ規制や台数割当制度を導入するなど、中心市街地の自動車の総量規制に踏み出す」ことをお約束しています。自動車による騒音、大気汚染、渋滞、交通事故などの「公害」をなくすには、自動車自体の規制強化と自動車をもっと「不便」なものにして公共交通を充実させるという方策を強化していかなければならないのではないかと考えています。

12)道路建設について
 道路特定財源制度によって道路建設が進み、様々な公害や環境破壊を生み出しています。道路建設がその地域、住民にとって本当に必要なのかを問い直し、抜本的に道路建設の進め方と財源について見直すべきであると考えます。その際、重要なことは、クルマの増加や経済的利益を前提とするべきではなく、クルマの持つ負の面、社会的費用をきちんと折り込み、環境や文化、生活交通、健康等の社会的価値に基づいた判断がなされることです。そして道路予算を、歩道や自転車道の整備、道路のバリアフリー化、公共交通維持財源、環境対策財源に抜本的に組み替えるべきです。

 ご参考までに社会民主党の総選挙政策のうち交通に係る部分をお送り致します。(以下略:入力担当)
クルマ社会を問い直す会